こんにちは!個別指導塾LegalGateで塾長をしている福田尚史です。
今回は、悩んでいる方も多いであろう、「予備試験短答試験の攻略法」についてお話ししていきます。私自身の受験生時代の経験等も踏まえながら、なるべく具体的に(忌たんなく)お伝えしますので、是非ご覧ください。
目次
はじめに(司法試験予備試験 短答式試験の概略)
まず、予備試験の短答試験がどのような試験かについてお話しします。
予備試験の短答試験は予備試験における最初の試験であり、例年5月中旬に行われます(2020年のみ、コロナウイルスの影響で8月に延期されました。)。短答試験に合格すると、論文試験の受験資格を得ることができます。
試験科目、試験時間及び配点はそれぞれ以下の通りです。
試験科目 | 試験時間 | 配点 |
---|---|---|
憲法 | 公法系(憲法と行政法)で合計60分 | 30点 |
行政法 | 30点 | |
民法 | 民事系(民法、商法と民事訴訟法)で合計90分 | 30点 |
商法 | 30点 | |
民事訴訟法 | 30点 | |
刑法 | 刑事系(刑法と刑事訴訟法)で合計60分 | 30点 |
刑事訴訟法 | 30点 | |
一般教養 | 90分 | 60点 |
ここで、過去5年間に行われた短答試験の合格点と合格率の推移をみていきましょう。
【合格最低点の推移】
平成29年 | 平成30年 | 令和元年 | 令和2年 | 令和3年 |
---|---|---|---|---|
160点/270点 (約59.2%) |
160点/270点 (約59.2%) |
162点/270点 (60%) |
156点/270点 (約57.7%) |
162点/270点 (約60%) |
上記の通り、合格最低点はだいたい6割前後の得点率となっています。
次に、合格率です。
【合格率の推移】
年度 | 平成29年 | 平成30年 | 令和元年 | 令和2年 | 令和3年 |
---|---|---|---|---|---|
受験者数 | 10743人 | 11136人 | 11780人 | 10608人 | 11717人 |
合格者数 | 2299人 | 2661人 | 2696人 | 2529人 | 2723人 |
合格率 | 約21.3% | 約23.8% | 約22.8% | 23.2% |
このように、過去5年間ではだいたい20%台前半の合格率となっています。
合格点は6割程度と、他の資格試験と比較してもそれほど高い数字ではないものの、毎年4~5人に1人しか合格できない(しかも他の資格試験と比較しても受験者層の質が高い!)という点では、予備試験短答試験に合格するためには、しっかりとした対策をとっておく必要があります。
ではここから、予備試験短答試験の具体的な攻略法に入っていきましょう。
具体的攻略法その①~前提として、合格に必要なこと~
前提として、短答試験の点数は、学習の量と相当程度相関しており、論文試験以上に、勉強量が大事になってくる試験となっています。すなわち、ざっくりと言ってしまうと、「勉強すれば受かる試験」であるということです。実際、勉強をたくさんしているけれども短答試験にいつまでも受からない人というのを、(少なくとも私は)見たことがありません。短答試験に落ちる原因は、「絶対量の不足(=勉強不足)」による場合がほぼすべてであると思っています。
また、重要なことは、「論文でも出題される基本的事項を抑えることで、短答試験合格に必要な知識量はカバーしている」ということです。
すなわち、短答試験の勝負の分かれ目は、短答プロパー(=短答試験にしか出題されない事項。枝葉の部分)をできるだけ多く暗記すること等ではなく、論文でも出る基本かつ重要な事項(=幹となる部分)を確実に抑えることが、最も重要なことであるということです。
このことを意識して勉強することができれば、雑多な知識の暗記に時間を使いすぎることなく、短答試験対策において習得した知識を論文試験にも生かすことができ、その後の司法試験合格まで(ひいてはその後の司法修習や実務においても)必ず役に立ちます。
王道ですが、「基本的かつ重要な事項の理解と暗記をひたすら繰り返す」ことが、予備試験の短答試験合格に向けての正攻法です(短答試験に受かる魔法のようなものを期待していた読者の方がいたら申し訳ありません<(_ _)>テクニック的なものを駆使して短答試験を突破したとしても、その後の天王山である論文試験や司法試験に合格できるかは微妙な気がしています。)。
ちなみに、私が予備試験に最終合格した年の短答試験の成績は190点代前半(全受験生中約250位。)であり、比較的点数は取れていました(点数の内訳は、一般教養が30点くらい、残りの法律科目が約160点前半くらいでした。)。しかし、私は短答試験がそれほど得意な方ではなく、またいわゆる短答プロパーの細かい知識を必死につめたりもしていませんでした(プロパーの確認は試験日の2週間前くらいから軽く行った程度です)。短答試験対策としてやっていたことといえば、上述した、論文試験にも出るような基本的で重要な事項をしっかりとおさえる作業に尽きました。
枝葉の部分よりもまず、幹となる盤石な基礎を確立することで短答試験は十分に合格することができるのです(もちろん、時間的余裕によっては直前期に枝葉の部分も抑えた方が良いことは確かですが。)。
なお、「基本的かつ重要な事項」といっても若干抽象的なので定義すると、「予備校がAランク又はB+ランクと指定している事項」、あるいは「司法試験、予備試験又は旧司法試験の論文試験において出題されている事項」となるでしょうか。これに加えて、判例百選に載っている事例については、試験において出題され得る事例として押さえておいた方がベターです(判例百選自体を見た方が良いかは別の話ですが(これもいつか記事にしたいと思っています。)。また、蛇足ですが、Aランク、Bランクのようにメリハリを自動的につけてもらえる点は、予備試験や司法試験の予備校を利用する大きなメリットであると考えます。)。
ではここからは、上述した基本かつ重要事項を学習する具体的な方法として、過去問の活用と知識のインプット等について解説していきます。上述した「幹」の部分を習得するツールとして、参考にしてみてください。
具体的攻略法その②~過去問の活用~
予備試験の短答試験に合格するためには、予備試験及び司法試験で実際に出題された、短答試験の過去問を繰り返し解くことがとても重要です。
過去問には合格のためのエッセンスが詰め込まれており(本番で出た問題なので当たり前ですが(笑))、繰り返し解くことで知識のアウトプットの最適な訓練になります。また、過去問で出題されているのと同じ条文や判例の知識が、角度を変えて繰り返し出題されている問題も多くあります。
「過去問に始まり、過去問に終わる」という表現がまさにぴったりですが、学習を始めてからなるべく早い段階で過去問を解くようにしましょう。試験の直前までお付き合いすることになります。
ここで、過去問の勉強においてよくある質問について、ババっと答えてみたいと思います。
Q1:学習初学者(予備校の基礎講義を受講中のレベル)でも過去問はやった方が良いですか?
A1:もちろんやった方が良いです。短期合格のためにはやるべきです。ただしいきなりやっても解けないので、例えば予備校の講義である範囲を勉強したら、その範囲について解いてみるといった流れで解くのが特におすすめです(予備校の基礎講義を聴き終わった時点で短答過去問も1周回せていれば理想です。)。過去問の問題も全部ではなく、難易度の低いものを中心に解くので良いと思います(市販の短答過去問集に難易度の表記がついていますのでそれを参考にしてみてください。)。
最初問題を見ても全く分からなければ、とりあえず問題文を読んで、(意味わからないな~とか思いながら)解答と解説をすぐに読むだけでもいいと思います。とにかく早い段階で過去問に触れておくことが重要です。直前期の短答学習がぐっと楽になります。
Q2:短答の過去問は何周した方が良いですか?
A2:個人差もあり一概に何周回せば合格できると回答するのは難しいのですが、まだ短答試験に合格したことのない方は、最低2.5周はすることをお勧めします。
年内に1周、年が明けてから直前期までに1周、直前期に0.5周(自信をもって正解できなかったものに絞る)回せれば最低限の量としては確保できているでしょう。その上で、余裕がある範囲で、+α(例えば年末年始で苦手科目のみ1周する等)を行うと良いです。
最初の1周を回すのはかなり時間もかかり大変だとは思いますが、2周目、3周目と回していくうちに、どんどん時間が短縮できると思います(3周目くらいには1周目の半分以下の時間で回すことができているはずです。)ので、まずは年内に1周回すところからチャレンジしていきましょう。
私も、最初に予備試験の短答試験に合格した年は、短答過去問を3周(予備校本等でインプット作業を平行させていました。)し、180点台後半の点数で比較的余裕をもって合格することができました(なお、この年は意気揚々と臨んだ初めての論文試験でコテンパンにやられて撃沈しました)。
Q3:短答過去問を回す際の注意点は何ですか?
A3:解答を暗記しても応用を聞かせられず、無意味になってしまうので注意すると良いです。1問1問について、なぜ正解なのか、なぜ誤りなのかについて、具体的な根拠をもってはっきりと答えられるようにすることが重要です。短答試験を受ける時までには、(難問に部類される一部の問題を除き)ほぼすべての問題について、このように根拠をもって正当できるレベルにまで仕上げることができれば、合格レベルの力はついていると言えるでしょう。
次は、短答試験に合格するために過去問学習と両輪をなす、インプット学習についてお話しします。
具体的攻略法その③~メリハリをつけた網羅的なインプット~
「過去問に始まり、過去問に終わる」ことは、「過去問を解くだけで合格できる」こととは全く異なりますので、注意が必要です。過去問はあくまでアウトプットであり、過去問を解く前提として、必要十分な知識をインプットしておく必要があります。
短答試験対策として、インプットを十分にせず過去問だけむやみに回そうとすることは、具材をそろえずに料理をすることと同様です(たとえがベタですみません。)。
おいしい料理を作るためには、良質な具材をそろえる必要があります。インプット作業により良質な具材をそろえ、過去問学習により具材の調理の仕方を学ぶことによって、はじめておいしい料理を作ることができるのです。
インプットの教材については、これが正解というものはありません。網羅性があるものであれば、予備校のテキストであっても、学者の基本書であっても問題なく、好きな方(若しくは用途を分けて両方)を使えば良いでしょう。自分が選んだ予備校本や基本書については、時には通読しながら、時には論文で出た分野を辞書的に調べながら、メリハリをつけつつ繰り返し読んで理解し、暗記する必要があります。
なお、インプット教材については各科目1~2冊で基本的には十分です。あれもこれもと手を広げると結局中途半端になってしまい、盤石な基礎を作れないことになりかねませんので、注意して下さい。
実際に個別指導をしていると、短答試験に合格したことのあるような上級者であっても、基本的事項の理解が甘かったり、正しく理解できていないと思われるような場面が多々あります。隅から隅まで完璧にする必要等はありませんが、論文試験でも出る可能性のある基本的事項については、自分の言葉で説明できるレベルに抑えておく必要があります。
メリハリをつけた網羅的なインプットに加え、過去問を丁寧に回していくことで、予備試験の短答試験合格はあと一歩まで来ているでしょう。最後に、模試の活用法と、短答試験特有の一般教養についてお話しして、本記事を閉めたいと思います。
具体的攻略法その④~模試の受験、一般教養対策~
(1)模試の受験
インプット学習をして過去問を回したら、最後の短答試験対策は、予備校が主催している模試の受講です(ただし模試をいくつも受ける必要はなく、1つか2つで十分です。)。予備校の模試は本番と同じタイムスケジュールで本番に近い問題を解くことができる点で、本番におけるタイムマネジメントを学ぶ絶好の機会です。模試を本番の試験と見立てて、試験中の時間配分の感覚を身に着けることはもちろん、休み時間の過ごし方(ノートを見直すのか、散歩するのか等。)やお昼ご飯のメニューに至るまで、本番の予行として活用しましょう。
模試の結果を復習することで、合格点を取ることができた場合には本番も自信をもってのぞめますし、合格点に達していなければ自分の弱点を把握して本番までに補強することができます。
模試は大抵4月の終わりから5月のはじめ頃に行われることが多いため、模試までに短答試験対策が一通り完了するスケジュールを組むと良いでしょう。
(2)一般教養
その他として、予備試験の短答試験の科目となっている、一般教養についてどのように対策するかについてお話します。
結論としては、一般教養について時間をかけて対策することはお勧めしません。模試を受講してなんとなくこんなもんかといった感覚をつかむくらいで良いです。その理由は、その難易度にあります。一般教養の問題は、社会、数学、物理、英語等、多岐にわたりますが、いずれもその難易度は相当高く、多少対策してどうにかなるものではないのが現状です。一般教養をすらすら解ける受験生はほとんどいませんので、法律科目で合格点を取れるレベルまで仕上げておくのがベストです。
なお、一般教養では全40問程度の中から20問を選択して解くことになりますが、そのうち、論理問題は必ず選ぶようにしましょう。例年3~4問程度は論理問題が出題され、これらは他の問題と異なり、前提知識がなくても正解することが可能であるため、時間をかけても解いた方が良いです。
その他、英語の問題も毎年5問程度出題されるため、英語が得意な人はここで得点できると良いでしょう。
ただし、基本的に一般教養で狙って高得点をとることは難しく、だいたい5割(=30点)程度取れれば十分ですので、「取れたらラッキー」くらいに思って法律科目で堅実に得点するのが得策です。
私も一般教養については特段対策をしておらず、論理問題と英語の問題だけは本番中に集中して解き、あとは完璧に直観で解いて30点前後の点数を取っていました。
法律科目で8割得点できれば一般教養が30点程度であっても200点前後は得点できる計算にはなるため、一般教養はおまけ程度の感覚で臨むのが良いと思っています。
おわりに
短答試験に必要な戦略や具体的方法について述べてきましたが、いかがだったでしょうか。
詳述しましたが、短答試験の合格にあたっては奇をてらった勉強をするべきではなく、過去問やインプットを通じて基本を着実に抑え、模試を通じてタイムマネジメントの能力をつける、これだけです。とにかく勉強量が重要な試験なので、この記事で述べたようなことに注意しながら一定の勉強量を確保することができれば、短答試験に合格できる可能性はかなり高いといえます。
決して簡単な試験ではありませんが、この記事もご参考にしていただき、1人でも多くの方が短答試験を突破されることを心から祈っています!
2021年5月某日の小雨降る日曜日 福田尚史
※令和5年3月 改訂